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平井和正初期短編の名作を集めた珠玉の作品集。 ●悪徳学園 ヤングウルフガイのプロトタイプとなった作品。もともとは、この「悪徳学園」を連作小説シリーズとする予定だったが、漫画「ウルフガイ」の原作小説にアイデアを転用したため、それを小説として発表した「狼の紋章」〜が本流となり、「悪徳学園」はこの一編きりとなってしまった。 一人称で書かれているためか、犬神明の性格はアダルトウルフ的であり、ヤングのような沈鬱さはさほど感じられず、こちらの犬神明もファンが多い。 ●星新一の内的宇宙(インナー・スペース) ショートショートの神様、故・星新一のカリスマ性を題材にしたショートショート。筒井康隆、小松左京、豊田有恒なども出演し、当時のSF作家たちの“生態”を生々しく伝える意味でも貴重な作品。 ●転生 平井和正の作品の中でも、最もほの甘く、美しい愛のかたちを描いた作品として、絶大なる人気を誇る中編作品。 女子高生の親友同士、内藤由紀と、野村みどりは、ちょっと気になる同級生、江島三郎と共に、バス停でバスを待っていたが……。 ●エスパーお蘭 念力で核爆発を起こす超能力を持った念爆者(サイコ・ブラスター)が、超高層ビルを爆破した。大統領特別補佐官のショウ・ボールドウィンは、強力なテレパシー能力を持った少女“お蘭”と共に、見えない敵を捜索する。 「サイボーグ・ブルース」ともオーバーラップする、初期ハードボイルド作品の傑作! ●親殺し 思いもよらぬ人類の“後継”によって、絶滅寸前まで追い詰められた最後の“旧人類”は何を思うのか? 残忍凶暴な人類へNOを突きつけつつ、それでも振り払えぬ愛惜の情。“人類ダメ小説”の決定版! なお、巻末にはハヤカワポケットSF版「エスパーお蘭」の伝説的あとがき「このあとがきをわが愛する立読み読者に献げる」を収録。本書「悪徳学園」は、この「エスパーお蘭」から5編をセレクトして文庫化されたもの。 また、リム出版の平井和正全集巻末に掲載された作者インタビュー「平井和正自作を語る『“まるごとの人間性”への認識』」も収録した。(インタビュアーはe文庫管理人です) ●目次 悪徳学園 星新一の内的宇宙(インナー・スペース) 転生 エスパーお蘭 親殺し このあとがきをわが愛する立読み読者に献げる
〈1971年4月 「エスパーお蘭(ハヤカワSFシリーズ)あとがき〉
あとがき 〈1974年2月 「悪徳学園」(ハヤカワJA文庫)あとがき〉平井和正自作を語る『“まるごとの人間性”への認識』
〈1991年11月 「悪徳学園」(リム出版)より〉
●立ち読み 悪徳学園 1 悪徳学園に新任の女教師がやってきた。悪徳学園というのは、おれの通学している東京の私立学校だ。正式には博徳学園という。それがなぜ悪徳学園なのか、すぐにわかる。 新任女教師の名前は、斎木美夜といった。まだ若くて、教師にはもったいないほどの美人だった。西田佐知子みたいに髪をロングヘヤーにしていた。 美人教師をむかえて、教室は大きく鳴動した。むろん、けたたましい反応をしめしたのは、男生徒の席にきまっている。なかには野卑な口笛を鳴らす奴もいた。 「ようようカワイコちゃん」 「カッコイイ。今週のオナニーメイト」 「やったぜ、ベイビイ」 この三年のクラスには、とんでもなく悪質な非行少年が半ダースも詰まっている。特別少年院に送られても当然という連中で、自分たちを広域組織暴力の大幹部になぞらえて、〈七人衆〉なぞと称している。奴らが教室にごろついている間は、ろくに授業などできない。 「脱げよ、脱げ脱げ。脱いじまえ。セミヌードでもいいからよ」 「ええ、みなさん、静かに……」 つきそいの教頭が咳ばらいをしながらいいかけると、たちまち猛烈に野次り倒された。沢村という名のチビの教頭は、悲しそうな顔でだまってしまった。たるんだのどをヒクヒクさせているのが憐れだった。〈七人衆〉を恐れているのだ。 「おねえさま、自己紹介して。教頭センセ、のどガンで声が出ないの」 「ちょっとH(エッチ)な二〇の質問」 「あなたのバスト何センチ?」 新任女教師は、黒板にむかって、きれいな字体で、自分の名を大きく書いた。 「あたくし、斎木美夜といいます。今度、みなさんの国語を担当することになりました」 斎木美夜はものおじしない、冴えた声でいった。たいへん度胸がすわっているらしい。 「すてき。今晩おデートしてくれる?」 「Hな質問その2。あなたの初体験は何歳のとき?」 もうハチャハチャだった。このクラスは、〈はきだめ教室〉と教師に名づけられていた。レッキとした非行少年〈七人衆〉がクラスどころか全校を牛耳っており、どうにも手がつけられないのだ。授業中タバコをすい、女教師をワイセツな野次でからかい、奇声をあげて授業妨害をやる。エロ写真エロ器具を持ちこむ。ウィスキーをまわし呑みし、放課後まで十数人も酔いつぶれていたこともある。睡眠薬やシンナー遊びなど、ほんの序の口だった。 〈七人衆〉に対し、強硬な意見をはく教師は、通勤のマイカーをぶちこわされたり、陰険な闇討ちにあってケガをした。教師を脅迫するぐらい、なんとも思わないキチガイじみた連中だった。 斎木美夜の顔はやや青ざめてきたが、態度は平静だった。 「犬神明さん、いらっしゃいますか? 犬神さん、起立してください」 教室が急にしずまりかえった。みんなの顔がおれにふりむいた。おかしなことになったと感じているのだろう。実をいうと、おれもそうだった。 おれは空席の目立つ最後尾の席から、のっそり立ちあがった。 「犬神はおれです。なにかご用で?」 斎木美夜は、まつ毛の長い、きれいな眼でおれを見つめ、うなずいた。「放課後、職員室へ来てください。お話したいことがありますから」 「ここでできない話ですか?」 「ともかく、職員室へ来てください。よろしいですね?」 「はい先生。おおせの通り」 おれは着席した。斎木美夜と教頭が出て行き、教室内はふたたび騒然となった。ボリュームを倍にしたほどのやかましさだった。 |