e文庫 ボヘミアンガラス・ストリート



作品紹介



■ストーリー
 月に一度、周期的に高熱を発する少年、大上円。彼は一家全員が超常能力を持つために、引っ越しを繰り返す“ボヘミアン・ファミリー”の長男である。そんな一家の新しい転居先、ウィング・シティで、円くんは不良少女“ホタル”に出逢う。不思議な憂いを帯びたホタルに、彼は心を奪われるが、妹分の小雪ちゃんや、生真面目な伊福部、軟派のコスギも円くんのLOVEサークルに加わって、波乱は必至! そんななか、世界の崩壊を察知した一家は他の世界に引っ越すことに……。円くんが選んだ道とは?
 「きまぐれオレンジ☆ロード」に触発された作者が、美しくも壊れやすい立原道造の詩想をモチーフに綴る、世紀末の恋。情念の魔術師が贈る、究極のリリカル&ロマンちックなマジカル・ラヴストーリー。

■解説
 最高のラヴストーリーを書きたい――。それは平井和正の悲願だった。
 その作者の願いが実を結んだのが、『ボヘミアンガラス・ストリート』である。そもそもの発端は、作者が病床でTVアニメ「きまぐれオレンジ☆ロード」の再放送を観たことに始まる。これにインスパイアされた平井和正は、オリジナルの「オレンジ☆ロード」の創出に取り組んだのである。
 超能力一家の長男と妹たち。そして、主人公が出逢う不良少女とその妹分。本作のシチュエーションが、まつもと泉作「きまぐれオレンジ☆ロード」に似通っているのはそのためだ。オマージュなのである。
 また、24歳の若さでこの世を去った夭折詩人、立原道造の詩編をボヘミアンガラスの繊細な美しさにかさね、ストーリーに導入することで、独特な雰囲気を醸し出している。芸術的な〈美〉。それだけが、この世界で唯一の価値を持っているかのように。
 この物語に、醜悪な人間感情は描かれない。円くんは自分を慕う少女の想いを冷たく拒むことはなく、彼を愛する少女たちも互いに恋の鞘当てを演じたりしない。嫉妬なき恋物語――。それは男と女の爛れた愛欲を描くのが文学であるとする近代作家への、平井和正のアンチテーゼなのかもしれない。
 にも関わらず、少年少女の淡いプラトニックな情感のみを描くことをこの作品はしない。〈恋〉と必ずペアで生ずる〈性〉についても、本作は真正面からビビッドに描き切っている。その意味で、『ボヘミアンガラス・ストリート』は希有なラヴストーリーと言えるだろう。
 この作品は1994年、アスキーからパソコン通信ネット10社の配信により、デジタルノベルとして、初めて発表された。インターネットでのデジタルノベル発信に注力する、先駆者・平井和正の、初のデジタルノベルという記念碑的作品である。

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